病院事務・業務改善 / 公開 2026-07-14 / 更新 2026-07-16 / 約15分
病院事務の業務改善で、何ができる?Excel・勤怠・委員会資料の具体例
病院のDXというと電子カルテや診療AIが先に浮かびます。しかし、各部署から届くExcelの集計、未提出者への連絡、委員会資料の更新など、事務方だけで見直せる仕事も少なくありません。この記事では、患者情報を使わずに始めやすい改善候補を、実際の作業の流れに沿って整理します。

病院事務の業務改善は、電子カルテの外側から始められる
月末になると各部署から別々のExcelが届く。担当者が列名をそろえ、一つの表へ貼り付け、未提出の部署へ連絡する。その数字を委員会資料へ転記し、前月の資料をコピーして説明文を書き直す——こうした仕事は、診療情報を扱わなくても発生します。
病院事務の業務改善とは、単にAIツールを導入することではありません。受け取る、入力する、照合する、集計する、確認する、伝える、保管するという流れを見直し、機械に任せる部分と人が判断する部分を分けることです。
この記事で扱うのは、総務、人事、経理、購買、施設、研修、委員会運営など、管理部門の仕事です。電子カルテ接続、レセプト・診療報酬請求、患者情報、診療情報、診断や治療の判断は含めません。
患者情報を使わない仕事から始めても、職員情報、給与、契約、取引先情報などの管理は必要です。「患者情報でなければ何をしてもよい」という意味ではありません。ただ、診療を止める危険を避けながら、一部署で試し、改善の進め方を院内で確かめやすくなります。
改善候補は、6つの領域にある
改善候補は、特別なAI業務を新しく探すより、すでに毎週・毎月行っている仕事から探す方が現実的です。
| 領域 | よくある作業 | 最初に見直す場所 |
|---|---|---|
| 総務・院内申請 | 購入、出張、押印、アカウント申請 | 不備確認、承認経路、未提出連絡 |
| 人事・勤怠・勤務表 | 未打刻確認、部署別勤務表、希望休 | 全件確認ではなく例外の抽出 |
| 経理・購買 | 請求書入力、発注・納品・請求の照合 | 転記と不一致確認 |
| 委員会・報告資料 | 月報回収、グラフ更新、議事録 | 同じ数字の作り直し |
| 物品・施設・保守 | 備品依頼、修繕、点検期限 | 依頼窓口と進捗台帳の分散 |
| 研修・資格・アカウント | 未受講確認、期限通知、入退職手続き | 名簿の照合と担当者への通知 |
すべてを一度に変える必要はありません。「回数が多い」「一回が長い」「差し戻しが多い」「担当者が休むと止まる」のうち、二つ以上が当てはまる仕事を一つ選びます。
総務・院内申請——紙とメールの往復を減らす
購入申請や出張申請では、申請書をデジタル化しただけでは手間が減らないことがあります。必須項目が空欄のまま届き、添付書類が足りず、承認先を確認するメールが往復するからです。
改善後は、フォームで必須項目と添付の有無を提出前に確認します。金額や申請種別によって承認候補を表示し、受け付けた後は「受付」「確認中」「差し戻し」「承認済み」を一つの台帳で追います。承認そのものは、権限を持つ職員が行います。
未提出者への連絡も同じです。提出一覧と対象者名簿を照合し、未提出者だけを抽出する。所属と締切を差し込んだ連絡文を準備し、担当者が対象者と期限を確認してから送信する。この形なら、AIを使わずExcelやワークフローだけで改善できる場合もあります。
院内問い合わせは、施設、備品、勤怠、規程、アカウントなどに分類し、担当部署へ渡します。FAQで回答できるものと、人の判断が必要なものを分け、患者情報が含まれる相談は別の安全な窓口へ送る設計が必要です。
人事・勤怠・勤務表——全員を見るのではなく、例外だけを見る
勤怠確認で負担になるのは、人数そのものより「どこに問題があるか分からないまま、上から順番に見ること」です。
改善後は、未打刻、重複、申請との不一致、定めた条件を超える勤務など、確認候補だけを一覧にします。機械が出すのは異常の断定ではなく、人事や所属長が確認すべき候補です。打刻漏れなのか、業務上の事情があったのか、申請が遅れているのかは人が確認します。
部署ごとの勤務表を集める仕事では、列名、日付形式、休暇記号が違うだけで集計に時間がかかります。既存Excelを直ちに廃止せず、提出時に形式を検査し、共通フォーマットへ変換するところから始められます。
シフト作成では、曜日・時間帯ごとの必要人数、職種や資格、夜勤回数、連続勤務、希望休などを条件として候補案を作れます。しかし、公平性、経験の組み合わせ、健康面、個別事情まで機械だけで確定させるべきではありません。責任者が調整し、最終確定する前提で使います。
経理・購買——請求書、発注、納品の不一致だけを見る
請求書の取引先、日付、金額、支払期限を読み取り、入力候補を作ることはできます。ただし、OCRの読み取り結果や勘定科目候補をそのまま会計処理へ流すのではなく、原本と照らして確定する場所を残します。
発注書、納品書、請求書がある場合は、伝票番号、品名、数量、単価、合計を照合し、不一致だけを一覧にします。これまで担当者が三つの帳票を全件見比べていたなら、「合っているもの」から手を離し、「合っていないもの」の理由を調べる仕事へ変えられます。
| 改善前 | 改善後 | 人が残す判断 |
|---|---|---|
| 請求書を見て項目を転記 | 読み取り結果を入力候補にする | 原本との一致、支払可否 |
| 三帳票を一件ずつ見比べる | 数量・単価・合計の差分を出す | 分納、値引き、契約条件の確認 |
| 部署別Excelを毎月コピー | 同形式の表を結合して更新 | 急増理由、予算変更の判断 |
複数のCSVやExcelをまとめる処理は、生成AIではなくPower Queryなどの確定的な仕組みが向くことがあります。Microsoftも複数CSVを結合するPower Queryの手順を公開しています。文章の下書きにはAI、決まった集計には表計算やスクリプト、と役割を分けます。
委員会・会議資料——同じ数字を何度も作らない
各部署の月報を一つの様式へそろえ、数字と自由記述を分けると、集計部分を自動更新しやすくなります。月報の数字から委員会資料の表を作り、その確定値を経営会議資料でも使う。数字を一度確定し、用途ごとに見せ方だけ変える設計です。
前月のPowerPointやExcelをコピーし、数字とグラフを手で差し替える作業も減らせます。元データを更新すると表とグラフが変わり、確定した数字から説明文の下書きを作る。増減理由をAIに断定させず、担当部署が事情を確認して文章を仕上げます。
会議録では、録音やメモから議事録案、決定事項、担当者、期限を整理できます。出席者が内容を確認してから保存し、次回会議で未完了事項を追跡します。患者事例を扱う会議は、録音・入力・保存先に別の安全設計が必要なため、本記事の対象外です。
物品・施設・保守——依頼と期限を一つの台帳で追う
修繕依頼が電話、メール、口頭、紙に分かれていると、依頼者は進捗が分からず、担当者は同じ内容を何度も聞かれます。依頼窓口をフォームへまとめ、場所、設備、緊急度、写真、依頼者を記録します。
担当、期限、状態を台帳で追えば、「未対応」「期限超過」「同じ設備で繰り返している依頼」を拾えます。緊急度は入力者の選択だけで決めず、診療への影響や安全上の基準を施設担当者が確認します。
保守契約、設備点検、車両、貸与品の期限も、担当者個人のカレンダーではなく共有台帳から通知します。異動や退職後も通知が止まらないよう、担当者名だけでなく担当部署と引き継ぎ手順を持たせます。
研修・資格・アカウント——期限切れと退職者対応を防ぐ
必須研修では、職員名簿、所属、職種、受講データを照合し、対象者のうち未受講の人だけを抽出します。対象条件が年度途中で変わる場合は、誰を対象にしたかという判定履歴も残します。
資格や免許、証明書は、更新期限、必要書類、提出状況を一つの台帳で管理します。職員情報を含むため、閲覧者を必要な担当者に限定し、保存場所、持ち出し、バックアップ、廃棄のルールを決めます。
入職・異動・退職時は、人事、所属部署、情報システム、総務がまたがります。アカウント発行、権限変更、端末貸与、返却、停止をチェックリスト化し、未完了だけを追います。電子カルテの権限設計そのものは、既存ベンダーや情報システム部門を含む別プロジェクトとして扱います。
AI、Excel、RPA、人をどう使い分けるか
何でもAIへ渡す必要はありません。数字を足す、決まった条件で抽出する、同じ形式の表を結合する処理は、Excel、Power Query、データベース、既存システムの方が結果を確かめやすいことがあります。
| 手段 | 向いている仕事 | 苦手・注意点 |
|---|---|---|
| Excel・Power Query | 集計、整形、照合、定型計算 | 元データの形式変更や属人化した数式 |
| RPA・ワークフロー | 決まった画面操作、通知、承認経路 | 画面変更、例外が多い仕事 |
| 生成AI | 要約、分類、文章の下書き、確認候補 | 事実誤認、判断根拠、入力情報の管理 |
| 人 | 例外対応、承認、交渉、責任を伴う判断 | 全件転記や反復確認は負担になりやすい |
個人情報保護委員会は、生成AIへ個人データを入力するとき、利用目的やサービス提供者による学習利用などを確認するよう注意喚起しています。無料AIへ職員名簿、給与、健康情報、患者情報を貼り付ける運用は避け、契約、保存、学習利用、権限、ログを確認します。
デジタル庁の生成AI調達・利活用ガイドライン第2.0版も、生成AIの利用促進とリスク管理を一体で扱っています。政府向けのルールを病院へそのまま適用するものではありませんが、利用者だけに責任を押しつけず、企画、提供、利用、報告の役割を決める考え方は参考になります。
改善前に数字を残し、効果を「時間」で測る
改善前の数字がなければ、導入後に「少し楽になった気がする」で終わります。まず次の項目を一か月だけでも記録します。
- 月間件数と発生する曜日・締日
- 一件あたりの作業時間
- 作業に関わる人数
- 差し戻し、入力ミス、未提出、期限超過の件数
- 担当者不在で止まった回数
- 本来業務の後に行った時間外作業
月間の削減時間は、「改善前の一件時間 − 改善後の一件時間」に月間件数を掛けて試算できます。ただし、浮いた時間がそのまま人員削減になるとは限りません。残業を減らす、締め処理を早める、専門職が本来業務へ戻る、確認精度を上げるなど、何へ時間を戻すのかを先に決めます。
利用率も見ます。処理時間が短くても、現場が使わず旧手順へ戻っていれば改善とは呼べません。エラー時に手作業へ戻れるか、担当者が変わっても動くかまで確認します。
最初の一業務は「安全性・効果・始めやすさ」で選ぶ
最初の候補として選びやすいのは、各部署の月次Excel集計、勤怠の未打刻確認、委員会資料の数字更新、必須研修の未受講者確認、院内申請の不備確認です。
選定時は、次の五つを確認します。
- 患者情報や診療情報を使わずに試せるか。
- 一部署・一業務へ切り出せるか。
- 件数、時間、差し戻しなどを測れるか。
- 現場責任者と実務担当者が一緒に確認できるか。
- 失敗したときに診療を止めず、元の手順へ戻せるか。
電子カルテや医療情報システムへ範囲を広げる場合は、難易度が変わります。厚生労働省の医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版を踏まえ、責任分界、委託先、アクセス権、ログ、障害時運用などを別途設計します。
Eighgentは、製品を決める前に作業の流れを見る
病院の社内SEとして約10年働く中で、改善相談は「この製品を入れてほしい」という形だけではありませんでした。「毎月この集計が重い」「確認漏れが怖い」「担当者が休むと分からない」といった言葉から始まります。
Eighgentが最初に行うのも、製品紹介ではありません。管理側の困りごとを聞き、担当者に普段の作業を見せてもらい、紙、Excel、メール、既存システムの流れを図にします。そのうえで、自動化する場所、人が確認する場所、今回は触らない場所を分けます。
一業務だけ改善案や小さな試作を作り、時間、差し戻し、ミス、利用率を測る。合わなければ直すか、広げずに止める。FDE型の業務改善の進め方でも説明している通り、提案書を作って終わりではなく、現場で使える形になるまで短く往復する考え方です。
病院事務の業務改善についてよくある質問
電子カルテに接続しなくても効果はありますか?
あります。月次集計、勤怠確認、委員会資料、院内申請、物品依頼、研修管理など、電子カルテの外側だけで完結する仕事があります。まず対象業務の件数と時間を測り、改善余地があるか判断します。
患者情報を使わずに始められますか?
始められます。患者情報を含まない手順、架空データ、件数や時間だけの作業量データで現在の流れを整理できます。ただし、職員情報や契約情報にも個人情報・機密情報が含まれるため、権限と保存場所の確認は必要です。
Excelをすべて廃止する必要がありますか?
ありません。現場が慣れた入力表を残し、提出時の形式検査や集計だけを自動化する方法もあります。Excelを残すか変えるかは、保守性、権限、同時編集、引き継ぎを見て決めます。
古い勤怠・会計システムでも改善できますか?
CSV出力、帳票、正式な連携機能があれば、外側の集計や照合を改善できる場合があります。画面を無理に自動操作する前に、ベンダー仕様、契約、更新時の影響を確認します。
シフトをAIで自動確定できますか?
候補案の作成はできますが、自動確定は勧めません。必要人数、資格、夜勤回数だけでは表せない経験、公平性、健康面、個別事情があるため、責任者が調整し最終確定します。
一部署、一業務だけでも相談できますか?
はい。むしろ初回は、患者情報を使わず、件数と時間を測りやすい一業務に絞る方が、現場負担と失敗時の影響を抑えられます。完成した要件書は不要です。「毎月つらい作業」を一つ教えてください。
情報システム部門や既存ベンダーとの調整は必要ですか?
既存システムのデータ出力、アカウント、端末、ネットワークへ触れる場合は必要です。院内SEやベンダーを置き換えるのではなく、変更範囲と責任を一緒に確認します。
効果はどのように測りますか?
改善前後の件数、一件時間、差し戻し、期限超過、時間外作業、利用率を比べます。時間が減っても手戻りが増えていないか、担当者不在時にも続けられるかを含めて判断します。