病院AI・電話業務 / 公開 2026-07-15 / 更新 2026-07-15 / 約15分
病院の電話対応はAIでどこまで変わる?AI電話・ボイスボットの比較と導入事例
電話が鳴るたびに窓口の手が止まり、担当部署を探し、折り返しのメモが増えていく。病院向けAI電話は、この負担を減らす選択肢として、すでに複数の病院で使われています。ただし、代表電話をすべて無人にする仕組みではありません。現在の使われ方と、導入前に見ておきたい違いを整理します。
病院向けAI電話は、すでに使える段階にある
外来受付で患者さんと話している最中に電話が鳴る。電話に出ると、別の診療科への問い合わせだった。担当部署へつないで席へ戻ると、今度は予約変更の電話が入る。こうした場面は、病院では珍しくありません。
病院向けのAI電話は、すでに実際の業務で使われています。ただ、現状を正確に表すなら、病院の電話を全部任せられる段階ではなく、用件を絞れば十分に使える段階です。
特に多いのが、再診予約の確認、変更、キャンセルです。患者さんが専用番号へ電話をかけると、AIが診察券番号、氏名、診療科、希望内容などを順番に聞き取ります。内容は病院側の画面へ届き、職員が予約枠や注意事項を確認したうえで返答します。
大阪公立大学医学部附属病院では、再診予約の変更、キャンセル、予約内容の確認を24時間365日受け付けています。ただし、電話をした時点では予約は確定しません。担当者が内容を確認し、原則として2営業日以内にSMSか電話で連絡する運用です。
帝京大学医学部附属病院も、再診の予約確認、変更、キャンセルにAI電話を使っています。当日の予約や診療内容の相談は対象外とし、通常の電話窓口を案内しています。
この二つの例からも分かるように、現在の中心は「AIが予約を勝手に動かす」仕組みではありません。まず用件を取りこぼさず受け付け、職員が落ち着いて処理できる形に変える仕組みです。
電話に出る仕事より、その後の仕事が変わる
AI電話の説明では、自然な音声や会話の精度に目が向きがちです。しかし、病院の負担が本当に減るかどうかは、通話後の流れで決まります。
従来は、電話を受けた職員が紙へ用件を書き、担当者を探し、予約システムを開き、必要なら患者さんへ折り返します。受付と処理が同じ人に集中するうえ、混雑時にはメモが増え、聞き直しや転記も起こります。
AI電話を入れると、複数の電話を同時に受け、決めた項目を同じ順番で聞き取れるようになります。通話内容を文字にして、診療科別や用件別に並べることもできます。職員は着信のたびに作業を止めるのではなく、受け付けた内容をまとめて確認できます。
ここで大切なのは、AIの受け答えだけを導入して終わらせないことです。AIが聞いた内容を職員がもう一度メモへ写し、さらに別の台帳へ転記するなら、負担の場所が移っただけです。担当部署への通知、折り返し管理、SMS送信まで含めて見直すことで、初めて仕事の流れが軽くなります。
| これまでの流れ | AI電話を使った流れ |
|---|---|
| 着信のたびに窓口業務を止める | AIが一次受付し、職員は決めた時間に確認する |
| 氏名や診察券番号を手書きする | 必須項目を順番に聞き、データとして残す |
| 担当部署へ口頭やメモで伝える | 用件に応じて担当部署へ通知する |
| 折り返し状況が個人の記憶に残る | 未対応、確認中、完了を一覧で管理する |
| 同じ案内を何度も説明する | 診療時間や持ち物など定型案内をそろえる |
導入病院では、用件を絞って使っている
公開されている病院の事例を見ると、最初から代表電話を丸ごと置き換えた例より、専用番号や特定業務から始めた例が目立ちます。
代表電話と予約専用電話を分ける
那覇市立病院では、代表電話に自動音声ガイダンスを設ける一方、外来診察の予約、変更、キャンセル、確認にはAI電話を導入しています。すべての電話に同じ仕組みを当てるのではなく、代表電話の振り分けと、予約用件の聞き取りを分けた形です。
蘇生会総合病院は、AI電話と通常の電話を両方用意しています。AI電話は24時間365日使えますが、従来の窓口も残されています。患者さんが用件や使いやすさに応じて入口を選べる運用です。
健診予約に限定して混雑を減らす
銚子市立病院では、代表電話の混雑緩和を目的に、健診の予約、変更、キャンセルへAI電話を導入しました。健診は聞く項目や案内内容を整理しやすく、通常の診察相談とも切り分けやすいため、初期導入の候補にしやすい業務です。
受付内容を診療科へ届ける
湘南鎌倉総合病院は、過去の通話を分析して会話の流れを作り、AIが受けた予約変更やキャンセルの内容を各診療科の端末へ表示する運用を紹介しています。同院の説明では、事務職員が電話対応に追われにくくなり、外来患者の受付や相談へ時間を使えるようになったとされています。これは同院の事例であり、同じ結果がどの病院でも出ると保証するものではありません。ただ、通話後の届け方まで設計した例として参考になります。
導入後に終了した例もある
AOI国際病院は、2026年3月末でAI電話予約サービスを終了し、代表電話での予約へ切り替えました。終了理由は公表されていないため、品質や費用が原因だったとは判断できません。
それでも、導入すれば自動的に定着するわけではないことは分かります。患者さんが利用しているか、聞き取りが途中で止まっていないか、職員の確認作業がかえって増えていないか。稼働後も数字と現場の声を見て、続け方を判断する必要があります。
AIへ渡しやすい電話と、人が出るべき電話
電話業務を分けるときは、件数の多さだけでなく、失敗したときの影響を見ます。手順が決まっており、急ぎではなく、最終確認を後から行える用件はAIへ移しやすい仕事です。
予約日の確認、変更希望の受付、キャンセル、診療時間、交通案内、持ち物、担当部署の確認などが候補になります。反対に、症状の相談、病状悪化、当日の受診、検査や入院に関わる変更、複数診療科が関係する用件、苦情は、人が受ける窓口を残した方が安全です。
琉球大学病院でも、予約変更やキャンセルはAI電話で受け付ける一方、緊急の場合やMRI、CT、PETなど一部の検査については通常の電話へ分けています。技術的に会話できることと、その会話を任せてよいことは別です。
受電と発信では、使い方が違う
病院で公表されている事例は、患者さんからかかってくる電話を受ける使い方が中心です。予約変更やキャンセルは、患者さんが電話をかける時間を選べるため、24時間受付との相性もよいからです。
発信では、予約日前の確認、健診の案内、必要書類の提出確認などが考えられます。同じ内容を多くの人へ伝え、回答によって次の案内を変える仕事には向いています。つながらなかった場合の再発信や、希望時間を聞いて職員の折り返しにつなぐ使い方もできます。
一方で、患者さんへの自動発信は、受電より慎重な設計が要ります。誰から、何の目的でかかってきたのかを最初に明確にし、不要な発信を止める手段を用意する。本人以外が電話に出た場合に、病名や診療内容が伝わらないようにする。留守番電話へどこまで残すかも決めなければなりません。
発信機能そのものは多くのサービスにありますが、病院名と運用成果まで確認できる公開事例は、現時点では受電ほど多くありません。まず予約リマインドなど一つの目的に絞り、対象者、時間帯、停止条件を決めて試すのが現実的です。
国内のAI電話サービスをどう比べるか
病院で使いやすい製品と、自由に会話を組み立てられる製品は、同じAI電話でも性格が違います。機能の多さだけで選ばず、自院がどこまで設計や連携を担えるかを考えます。
| サービス | 合いやすい場面 | 受電と発信 | 特徴 | 導入前に確かめたいこと |
|---|---|---|---|---|
| Dr.JOY AI電話 | 病院の予約一次受付を早く始めたい | 受電中心。発信は個別確認 | 病院向けの聞き取りと管理画面 | 予約確定までの運用、既存システムとの分担 |
| やくばとAI電話 | 電話、Web、FAXの予約経路をまとめたい | 受電中心。発信は個別確認 | 予約情報の整理とSMS連携 | 対象診療科、院内の予約管理方法との相性 |
| commubo | 受電と発信を一つの基盤で設計したい | 受電、発信に対応 | 会話の分岐、生成AI、API、有人転送 | 病院での運用実績、設計支援、保存条件 |
| AmiVoice ISR Studio | 日本語認識と定型分岐を細かく作りたい | 受電、発信に対応 | 医療語彙、ノーコード分岐、Webhook | 実際の患者名や診療科名での認識精度 |
| IVRy | 代表電話の一次受付から小さく始めたい | 受電を中心に確認 | 電話振り分け、要約、担当通知 | 複雑な予約変更への対応範囲 |
Dr.JOY AI電話について、音声技術を提供する株式会社エーアイは、2024年6月の提供開始から190以上の医療機関へ導入されたと公表しています。この数字はベンダー側の発表であり、施設ごとの利用件数や継続率までは示していません。導入数だけで判断せず、実際のデモで自院の診療科名、患者さんの話し方、雑音がある環境を試す必要があります。
commuboは受電と発信、会話の分岐、API連携、有人転送を組み合わせられます。AmiVoice ISR Studioも、ノーコードの分岐、医療分野の語彙、Webhook、発信に対応しています。どちらも柔軟に作れる一方、病院の受付手順を誰がシナリオへ落とし込み、稼働後に誰が直すかを先に決めなければなりません。
病院向けの定型フローを早く使いたいなら、医療機関向け製品が候補になります。受電と発信をまとめ、院内の仕組みと細かくつなぎたいなら、汎用性の高い製品が向いています。どちらが上というより、院内で持てる設計と運用の範囲が違います。
Excelやn8nとつなぐと、折り返しまで整えられる
小さな検証では、診療科、受付時間、休診日、担当部署など、患者情報を含まない項目をExcelへまとめ、AI電話が案内するときの基礎情報として使えます。通話結果を折り返し台帳へ追加し、担当者が一覧で確認するところまでなら、現行業務との違いも確かめやすくなります。
n8nのようなワークフロー自動化ツールを間に置けば、AI電話から届いた内容を用件別に分け、担当部署へ通知し、折り返しタスクを作り、受付済みのSMSを送る流れを組めます。会話そのものは音声サービスに任せ、電話の前後をn8nでつなぐ形です。
ただし、患者情報を扱う本番運用で、個人のパソコンに置いたExcelをそのまま台帳にするのは避けるべきです。閲覧できる人、保存期間、操作記録、バックアップ、削除方法を管理できるシステムへ移します。音声データや文字起こしがどこに保存されるか、サービス提供会社が再委託する範囲も確認します。
厚生労働省の医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版は、技術だけでなく、経営管理、企画管理、システム運用、委託先との役割分担を含めた対応を求めています。医療・介護関係事業者の個人情報ガイダンスも踏まえ、録音の目的、保存、アクセス権、委託先管理を院内ルールへ落とし込む必要があります。
実用性は、会話の自然さだけでは測れない
デモで滑らかに話していても、業務が軽くなるとは限りません。導入前に、まず一週間から二週間ほど電話の理由を記録します。予約変更が何件あるか、どの時間に集中するか、一本に何分かかるか、どこへ転送しているかを見るだけでも、対象にすべき電話が見えてきます。
試験運用が始まったら、次の数字を追います。
- AIが最後まで聞き取れた割合
- 人の電話窓口へ戻した割合
- 予約確定までにかかった時間
- 代表電話の待ち時間と途中切断
- 職員が確認や転記に使った時間
- 患者さんのかけ直しや問い合わせ
- 未処理や誤った振り分けの件数
聞き取り完了率が高くても、職員の確認に時間がかかるならシナリオを直します。利用者が少ないなら、番号の案内方法や通常電話との違いが伝わっているかを見ます。合わなければ対象を広げず、戻せることも小規模導入の条件です。
AI電話は、これから病院に必須になるのか
すべての病院が今すぐ導入しなければならないものではありません。電話件数が少なく、担当者が十分に対応できている診療所では、新しい管理画面や運用が増える方が負担になることもあります。患者層、予約方式、診療科、既存のコールセンターによって適否は変わります。
一方で、定型電話が多い病院では、AI電話は標準的な選択肢になっていくと考えられます。Web予約を使いにくい患者さんにも電話は残ります。人を増やしにくい中で24時間の受付を用意し、通話内容をデータにして改善へつなげられるからです。
今後は、用件を聞いて記録するだけでなく、予約システムから空き枠を参照し、条件がそろった予約を確定し、SMSで内容を送り、必要な案件だけ職員へ渡す形が増えるでしょう。定型部分は決めたシナリオで安全に進め、言い直しや曖昧な表現だけ生成AIで補う組み合わせも広がります。
それでも、病状や不安を抱えた患者さんの電話まで、効率だけを理由にAIへ寄せるべきではありません。AI電話の役割は、人を電話対応から消すことではなく、人が出るべき電話へ時間を戻すことです。
病院で始めるなら、一業務と専用回線から
最初の候補は、予約確認、予約変更、キャンセル、健診予約など、件数が多く手順をそろえやすいものから選びます。代表電話を一度に変えず、専用番号か一部の時間帯で試します。AIが受け付けた後は職員が確認し、通常電話へ戻せる入口も残します。
製品を決める前に確認したいのは、電話理由の内訳と、その後の処理です。誰が予約を確定し、どこへ記録し、何日以内に返答するのか。ここが決まれば、病院特化型がよいのか、commuboやAmiVoiceのように柔軟な製品がよいのかも判断しやすくなります。
Eighgentでは、電話システムの販売を前提にせず、現在の着信理由、聞き取り項目、担当部署、折り返し、保存する情報を先に整理します。AI電話を使わない方がよい業務も含め、一業務で試せる範囲へ落とし込む考え方です。個人情報を扱う範囲の決め方は、病院事務でAI業務改善を安全に始める方法でも詳しく説明しています。
病院向けAI電話についてよくある質問
高齢の患者さんでも使えますか?
電話なのでWeb予約より使いやすい方もいますが、音声案内の速さや質問の言い方によっては難しくなります。実際の患者層に近い人で試し、聞き直し方法と人へつながる番号を分かりやすく案内する必要があります。
AIだけで予約を確定できますか?
予約システムと連携すれば技術的にはできますが、現在の病院事例では、AIは希望を受け付け、職員が確認して返答する運用が多く見られます。最初は人の確定を残し、例外と誤認識を確認してから範囲を広げる方が安全です。
今の代表電話番号を変える必要がありますか?
既存番号へ自動音声を入れる方法と、予約変更専用の番号を新しく設ける方法があります。初期導入では、通常電話を残したまま専用番号で試す方が、患者さんへの影響を限定できます。
症状の相談も任せられますか?
この記事で扱うAI電話は、予約や案内など事務的な一次受付が対象です。症状、緊急性、診療判断は人が対応する窓口へ分けます。急ぎの場合の電話番号を、案内の最初と病院Webサイトの両方で明示します。
通話録音や診察券番号は、どう管理しますか?
利用目的、保存場所、保存期間、閲覧権限、削除方法、委託先を決めます。録音を残さず文字情報だけ保存する設計も含め、必要以上の情報を持たない方法を製品会社と確認します。
受電だけでなく発信にも使えますか?
予約リマインドや健診案内などに使えます。ただし、本人以外が電話に出た場合の情報開示、発信時間、停止希望、つながらない場合の扱いを先に決めます。受電とは別の業務として試験運用する方が安全です。
電話をなくすより、人が出る電話を選べるようにする
病院向けAI電話は、もう実験だけの技術ではありません。大学病院や市立病院を含む複数の医療機関で、予約確認、変更、キャンセル、健診予約に使われています。
ただし、実用になっている理由は、何でも会話できるからではありません。用件を絞り、AIが一次受付し、職員が確定するという分担ができているからです。
まず自院の電話を一週間記録し、件数が多く、急ぎではなく、手順を決められる用件を一つ探す。そこから専用回線で試し、患者さんの使いやすさと職員の後工程を測る。この順番なら、製品の宣伝に合わせるのではなく、自院の仕事に合うかどうかで判断できます。